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Toy series 2017

Toy series(トイ シリーズ)2017

技法:紙版画 / 用紙:和紙(雁皮) / サイズ:297×420㎜ / エディション:モノタイプ

 

幼い頃の話です。とにかく遊ぶことが大好きだったのですが、好き過ぎて、遊びじゃないことまでも、遊びにしてしまい、周囲の大人に叱られることもしばしば。学校の授業が終わると、男女問わずクラスメートのほとんどから、今日は何して遊ぶの? と尋ねられる日々が、当たり前のようでしたから、完全にクラスの遊び担当といったところでしょうか。子供が好きなスポーツはもちろん、身の回りのものを使って謎のスポーツ(?)を即興で考たり、ちょっと不思議なシチュエーションのママゴト(かなりの人数で臨む、大ママゴト!)を、独自のシナリオで演じてみたり、今にして思えば、かなりの自由な毎日を送っていたわけです。日が暮れるまで、そんなふうに、外で充分に遊んだはずなのに、家に帰っても、いまだ未知なるエネルギーを持て余しているのか、工作やお絵かき、ブロック遊びや、ひとり人形劇(笑)まで、たっぷりとこなし、一日のシメは、布団の中で懐中電灯を灯してキャンプごっこ。頭の中は、朝から晩まで、何を、どうやって遊ぶか、ばかりだったように思います。ことさらブロック遊びは大好きでは、その最中はもう、ほとんどトランス状態です。たった一つのブロックでも、ひとたび手に持ってしまったなら、空想(妄想とも)の世界に住む、もう一人の我が声に抗えず、テレビもそっちのけで、のめり込んで行きます。空想の世界…。そこでは“辻褄”なるものは、一番はじめに手放すのが、当時の作法。そして、まるでしりとりのように繰り広げられる“思いつき”と“連想”は、次第に何らかの流れを帯び始め、やがて荒唐無稽でも“とある物語”にまで変化するのが、いつものパターンです。念じるだけでどこにでも連れて行ってくれる飛行機や、水中も火山の中も潜れる冒険者には必須のレーシングカー。幸せな気分になれる音色が出せる美しい楽器や、欲しいをすぐに縫い上げてくれる魔法のようなミシン。目も眩むようなお城には、とにかく可愛い謎の生き物いて、そこには絶対に減らない大好物があるのです。子供ながらも、それまでの自分の人生で知ったことや、当時の欲望をすべて満たしてくれる、浅はかな理想主義を総動員し、頼まれたわけでもないのに、ひた向きにこの“とある物語”を創造していくのです。ありとあらゆる“大好き”が登場し、そんな、めくるめく物語の変化変容に、手にしたブロックは呼応しながら、次々とその空想世界の“大好き”たちを具現化していきました。さて、この紙版画という手法による作品、“Toy series(トイ シリーズ)”は、そんな自分の“大好き”、つまり、理屈ではなく、どうしても心を寄せたくなる“衝動”と純粋に向き合うことから、創作が始まります。この衝動つまり大好きという気持ちが素直に向かうモノをモチーフに、今だに得意な空想や想像で描いた、“遊びの姿”がこの作品シリーズと言えます。モチーフの中心となったのは、19世紀後半から20世紀前半の技術革新が生んだもの。当時の人々の、新たなテクノロジーへ対するジレンマと、それ対しエレガンスをもってして、バランスを保とうとしたことによる、結果としての道具や機械の佇まいに、如何ともしがたい、愛おしさを感じるのです。また、用いる配色は、あの時見た美しい空だったり、美味しい果物だったり、自分の感性が捉えた、感動の履歴のようでもあり、喜びそのものでもあります。好きなモチーフを好きな色で描く。大好きと大好きを混ぜ合わせているから、なんだか昔の自分と変わっていないようで、発表するのが、ちょっぴり恥ずかしい気もしてきます。作品を制作するときは、紙をパーツごとに切り出し、それぞれに版画インクで着彩したなら、ひとつひとつ絵となるように馬連で刷っていきます。まるで積み木を組み上げるときのよう、少しずつ慎重に。版画作品と申しましても、紙を使った版の場合、その強度が弱く、せいぜい刷れても4〜5枚ほどで、その中でもコンディションが良いものは1点あれば良い、といった具合ですから、エディションは全て1/1(モノタイプ)となるわけです。妙に手間ばかりかかるわりには、仕上がりに報われにくい手法ですが、そのかわり、創っているあいだは、深く空想の世界に遊べるので、やはり、あいも変わらず、手が止まらないのだと思います。

 

すべての作品のご鑑賞は[こちら]から。

また、掲載作品は、カッシーナ・イクスシー青山本店内2階のアートギャラリー“ARTE ANELLO(アルテ・アネッロ)”にて2017年に開催した『Regalo Palma』で展示いただきました。現在、その内一部の作品をGIFT BOX SET(シート5枚組1セットを2セット限定でカッシーナ・イクスシーオリジナルパッケージ入り)として、また額付き単体作品としてお取り扱いいただいておりますので、ご希望の方はギャラリーまで、是非お問い合わせください。