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A BOOK 〜しずかな こえ〜

A BOOK 〜しずかな こえ〜

絵・文 成澤豪

上製本(背を布クロスとした継表紙、表紙タイトル箔押加工、A4サイズ横、見返し、別丁)/オフセットカラー印刷/全32ページ)

 

子供の頃、日常生活に沢山の絵本がありました。文字が読めて、書けるようになるまでは(僕の場合、どちらも身につけるのが、少々のんびりペースだったようです)、母親に読んでもらうことがほとんどでした。いつものように、まずはタイトルコールに始まり、最初のページがゆっくりと開くと、目に飛び込んでくる絵と、母親の語り口調によって、あっという間にその世界に没入していったものでした。特に気に入っている絵本は、繰り返し催促するものですから、絵と語り、そしてページをめくるスピードまで、そのタイミングをすべて覚えてしまいます。ですから、当時は、たまに一人で絵本を眺める時、文字が読めなくても絵本の世界に、シンクロでもするかのように入り込めていたように思います。ところで、当時の絵本体験を思い返すとき、いつも不思議に思うことがあります。絵を思い出そうとすると、それがまるで動画(映画)のように、音が聞こえ、動いている絵として思い出されるということです。ページからページに移る、そのあいだのシーンは描かれていないはずなのに、なぜか一冊の絵の印象が、一連の動画のように思い出されるのです。また妙なことに、絵本の中で描かれたシーンを、なぜか違うアングルでも思い出せるものですから、どこまでが実際の絵本の中の絵で、どこまでが空想の産物なのかが判然せず、実にややこしい思い出となっているのです。さらに、不思議なのは脳裏に聞こえていた、語りの声を思い出そうとすると、もはや母親のそれではないということです。自分の声のような、絵の中の世界の架空の誰かのような、見知らぬ(あるいはちょっと知っている)女性のような男性のような、じつに曖昧なものとなっており、あえて言うならば、想像の“場の声”というのがふさわしいようにも思えるのです。この絵本体験には思い出としてみるならば、こんな不可解さはあるものの、自己体験としての違和感は、いまのいままで感じたことがなかったものですから、いまだに絵本を読むと、そんな感覚で向き合ってしまいます。さて、こんな奇妙でちょっぴりディープな絵本体験にインスピレーションを得て制作したのが、この“A BOOK(ア ブック)〜しずかな こえ〜”という、“一冊の作品”でした。それは自分が味わってきた、“絵本の能力”を借りた作品表現で、一枚のアート作品を鑑賞した際に、何らかの感慨を体験するように、一冊の絵本を読み終えた、その読後感を通して、同様の感慨をもう少し立体的に体験してもらえないだろうか、というもの。つまり、一枚の作品ならぬ、一冊の作品となるわけです。内容は、紙版画によるRoomシリーズの表現スタイルを採用し、“しずかな こえ”というインスピレーションで、新たに13点の作品を制作しました。またそれと同時に、同じインスピレーションを、言葉という手段でも表現し、詩のようなリズムと優しい言葉づかいで、作品の世界観をシンプルなストーリーに書き下ろしております。また、ストーリー本編は和文をメインとし、英文を字幕のように併記したバイリンガルとし、和英ともに表記書体は、絵と文がいざなう作品世界の“場の声”にふさわしくあるべく、A BOOKのためのオリジナル書体をデザインしました。そして、原画である版画作品の熱量とリアリティを感じてもらうため、本の判型は原画の原寸であるA4サイズにし、文字(言葉)と絵が、紙面の余白を介して、呼応し合い、ひと見開きごとにストーリーが進行していくよう制作いたしました。なお、本の体裁は、絵本のように繰り返し読み続けてもらいたいという願いのもと、丈夫な上製本で継表紙という仕様に致しております。さて、このA BOOKというタイトルは、“とある本”というニュアンスが込められております。本の中の“しずかな こえ”がもたらす読後感が、自身の経験や体験から紡がれる感慨と一体となり、この“とある本”が、“私だけの本”となり得たなら、こんなに嬉しいことはありません。

 

この作品のご紹介写真は[こちら]から。

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